永田町がかつてない緊迫感に包まれています。2026年度予算案を巡る攻防は、単なる与野党の数字の競り合いを超え、日本の議会制民主主義が機能不全に陥るかどうかの瀬戸際に立たされています。坂本衆議院予算委員長が「職権」で3月13日の採決を強行する中、国民民主党は「戦略的暫定予算」という具体的な対案を掲げ、審議時間の確保と国民生活の保護を両立させる「第三の道」を提案しました。この攻防の構造と、その先にある国民民主党の戦略を読み解きます。
12月18日の合意 ─ 何が約束され、何が崩れたのか
事の発端は、2025年12月18日に高市総裁と玉木代表の間で交わされた合意にあります。国民民主党は、予算の年度内成立に協力する条件として、国民の懐を直接温める3つの政策を認めさせました。当時、玉木代表は高市総理を「約束を守るリーダー」と評価していました。
「103万円の壁」の打破
基礎控除等を103万円から178万円に引き上げ、パート・アルバイトの就労抑制を解消し、現役世代の手取りを増やす。
ガソリン「暫定税率」廃止
1リットルあたり約25円上乗せされている暫定税率を廃止し、燃料価格を抑制する。トリガー条項の凍結解除も含む。
自動車関連税制の軽減
新入社員が200万円の中古車を購入する際にかかる約6万円の税負担(環境性能割等)を軽減し、4月からの新生活コストを下げる。
崩れた前提条件
この合意には解散総選挙による1ヶ月の遅れは想定されていなかった。施政方針演説は2月20日までずれ込み、審議時間が極端に削られる事態に。
しかし、解散総選挙がすべてを破壊しました。協力の前提を自ら壊しながら、数に頼って押し切ろうとする手法に対し、玉木代表の不信感は決定的なものとなったのです。
審議50時間の危機 ─ 「自作自演」の構造
憲法に基づき、主権者である国民から預かった税金の使い道を、その代表である国会議員が厳格にチェックし、納税者の承認を得るという実務的な鉄則です。高邁な理想論ではなく、122兆円という空前の予算規模に対して十分な検証なしに白紙委任を与えることは、将来的な不適切な税金投入やチェック機能の喪失を意味します。
例年、予算審議は1月20日頃に召集され、衆議院だけでも最低80時間の審議を積み重ねるのが「憲法が求める熟議」の形です。しかし今回、解散総選挙という政権側の都合により1ヶ月の空白が生じ、審議時間は50〜60時間にまで圧縮されました。過去の最低ラインとされる66時間を大幅に下回ります。
ここで本質を見失ってはなりません。これは「時間の不足」ではなく、政府による「自作自演の危機」です。自ら解散を選び、審議時間を削りながら、一方で「年度内成立が国民生活を守る至上命題だ」と野党に協力を迫る──この「年度内成立」を盾にした論法は、国会における合意形成プロセスを形骸化させるものです。
| 項目 | 与党の強行日程案 | 国民民主党案 |
|---|---|---|
| 衆院通過日 | 3月13日(職権で強行) | 3月16日以降(十分な審議) |
| 審議時間 | 約50時間(過去最短) | 60時間以上(良識ライン) |
| 物価高対策 | 本予算成立まで追加策なし | 暫定予算に対策を盛り込む |
| 電気代補助 | 4月から補助金終了リスク | 補助延長で家計負担を回避 |
| 参議院への影響 | 「荷崩れ」で不正常化リスク | 正常な審議日程を確保 |
衆議院での強引な日程決定が、参議院側の準備(質問通告や役所の対応)を不可能にし、国会運営が不正常になることを指します。与党は参議院で過半数を割っているため、無理に衆議院を通過させると参議院の審議がスムーズに始まりません。榛葉幹事長は「参議院を衆議院の下請けにしてはならない」と訴えています。
「戦略的暫定予算」─ 第三の道
新年度(4月1日)までに本予算が成立しない場合に、一定期間の歳出を賄うために編成されるつなぎの予算です。財政法30条に基づきますが、法律上、暫定予算の対象は限定されていません。与野党の合意があれば、単なる「つなぎ」ではなく、最新の経済情勢を反映した緊急パッケージを盛り込むことも可能です。
政府の「予算が成立しなければ国民生活が困る」という論理を、玉木代表は「戦略的暫定予算」という具体案で覆しました。これは財政法30条を戦略的に活用し、審議時間の確保と国民生活の保護を両立させる合理的な解決策です。
公務員給与・
年金の支払い
電気代・ガソリン
補助金の延長
中東リスクに
柔軟に追加策
十分な審議を
経て4月に可決
この提案は、現在の予算案がイラン情勢の激変によって既に「時代遅れ」になっているという冷徹な分析にも基づいています。中東情勢の緊迫化で原油価格が高騰するリスクがある中、既存の予算案では対応しきれない物価高騰から国民を守るには、暫定予算で最新の情勢を反映した緊急パッケージを組むほうが合理的です。
しかし高市総理は、わずか3日(週末を挟んだ3月16日への延長)すら認めない強硬な姿勢を貫きました。この対応は、国会を「対話の場」ではなく単なる「通過点」と見なしているとの批判を招いています。
信頼の崩壊と「B2C政治」への転換
読売新聞の橋本五郎氏が指摘するように、あらゆる決定を「職権」で行う高市総理のやり方は、もはや「国会不要論」に近いとされています。16日までの延長という譲歩案すら一蹴されたことで、国民民主党と高市政権の信頼関係は修復不能な段階に至りました。
今回の「反対」という判断は、単なる政策への異論ではありません。強引な「職権乱発」に対する、議会制民主主義を守るための「強制された拒絶」なのです。
巨大与党に対して小規模政党が生き残るための戦略転換です。特定の労組や団体を通じた「B2B」(組織間取引)の政治から、個々の国民に直接メッセージを届ける「B2C」(対個人)の政治へ。ターゲットは、重い社会保険料と物価高に苦しみながら、これまでの政治から光を当てられてこなかった「組織されないサラリーマン」や現役世代です。
「手取りを増やす」という直感的なメッセージの先に、国民民主党はより具体的な地方課題にも目を向けています。
地方の足
医療や生活を維持するための地域交通インフラの再構築。過疎地域の移動手段を確保し、生活の質を守る。
アフォーダブルな住まい
空き家対策と若年層への住宅支援。増え続ける空き家を活用し、若い世代が安心して暮らせる住環境を整備。
参議院で与野党が拮抗する中、国民民主党が「政策本位」の姿勢を貫くことは、今後の政局のキャスティングボートを握り続けることを意味します。
私たちが注目すべき3つのポイント
審議時間は十分か
122兆円の税金の使い道をチェックする「時間」が確保されているか。通常80時間のところ、50時間は歴史的な審議不足。
政策は実行されるか
103万円の壁(178万円への引き上げ)やガソリン暫定税率廃止など、合意された約束が確実に実行されるか。
手続きは妥当か
異論を排除した「数の暴力」で国会が形骸化していないか。プロセスを無視して結論を急ぐ政治は、いつか必ず納税者の不利益となって返ってくる。
電気代はどうなるか
3月末で5,000億円の補助金が切れると4月から電気代が急騰。暫定予算で「空白」を埋められるかが家計を左右。
国民民主党は「対決より解決」を掲げ、国民生活に実利をもたらす政策を追求しています。