2026年3月、衆議院本会議および財務金融委員会で特例公債法改正案の審議が行われました。政府は赤字国債の発行権限をさらに5年間延長する法案を提出。これに対し国民民主党の田中健議員と近藤雅彦議員が質疑に立ち、「毎年審議」への回帰を軸とした対案を提示しました。本来は「例外中の例外」であるはずの赤字国債発行が、なぜ半世紀にわたって常態化してきたのか。そして国民民主党はなぜ今、制度の原点回帰を求めるのか。その論理構造を読み解きます。
「特例公債法」とは ─ 赤字国債を発行するための唯一の道
日本の財政法第4条は、国の歳出は国債に頼らず税収等で賄うべきという大原則を定めています。例外的に認められるのは、道路や橋などの公共事業に使う建設国債のみ。つまり、収支の不足を補うための赤字国債は、原則として発行が禁止されています。
しかし現実の日本財政では、税収だけでは歳出を賄いきれない年が続いています。そこで登場するのが「特例公債法」です。これは財政法第4条の原則に対する「例外措置」として、赤字国債の発行を時限的に認める法律です。
この制度を初めて導入したのは、1975年(昭和50年)の大平正芳大蔵大臣(当時)でした。第一次石油危機後の深刻な歳入不足に直面し、やむを得ず赤字国債を発行するための法的根拠として特例公債法を制定。当時はあくまで「1年限り」の緊急措置として設計されたものでした。
田中健議員は委員会で、片山財務大臣にこう問いかけました。「現在の日本の財政は、特例公債に依存する構造になっているという認識か。もしそうであるならば、いつ脱却するのか」。片山大臣は「少なくとも経済財政新生計画の期間である2030年度までの5年間において、特例公債の発行を全く必要としないような財政状況ではない」と率直に認めました。
特例公債法は本来「1年限りの緊急措置」として始まったが、32年連続で発行が続き、事実上の恒久制度と化している。政府自身も、少なくとも2030年度までは脱却できないと認めている。
承認期間の変遷 ─ 1年から5年への道のり
特例公債法の承認期間は、政治的事情の変化とともに段階的に延長されてきました。田中健議員はこの経緯を丁寧に振り返り、「5年という期間は財政理論から導かれたものではなく、政治的事情の中で定着してきた」と指摘しました。
| 期間 | 承認形態 | 背景 |
|---|---|---|
| 1975〜2011年 | 単年度(毎年)審議 | 財政法の原則を重視し、毎年国会で発行の是非を審議 |
| 2011年 | 1年限りの承認 | ねじれ国会で成立が遅延し、菅総理の退陣と引き換えに成立 |
| 2012年 | 4年間 | 成立遅延の反省から議員修正で複数年度化。PB半減目標まで |
| 2016年〜 | 5年間 | 安倍政権下で延長・定着。以降2回の改正でも5年ずつ更新 |
| 2026年(政府案) | 5年間継続 | 経済財政新生計画(R8〜R12年度)に合わせて |
| 2026年(国民民主案) | 毎年審議 | 財政規律と市場対話の再建を目的に、中道グループと共同提出 |
注目すべきは、2012年に4年間の一括承認が導入された際の経緯です。当時は「プライマリーバランスの半減」という明確な財政健全化目標があり、その目標達成までの期間として4年と設定されました。しかし今回の5年間は、経済財政新生計画の期間に合わせただけであり、具体的な到達指標がありません。
5年間の大きな目標が決まっているけれども、毎年その進捗状況、さらには今金利の上昇局面また円安、様々な要因が不確定でありますので、1年ごとに見ていくのが大切だ。
── 田中健 議員(衆議院 財務金融委員会)国民民主党の対案 ─ 「毎年審議」に戻すべき3つの理由
国民民主党は3月10日、中道グループと共同で特例公債法を「毎年改正」する対案を提出しました。赤字国債の発行自体を否定しているわけではありません。田中健議員が「私たちは赤字国債を発行するのを否定しているわけではない。必要であるという認識だ」と明言しているように、発行の是非ではなく、承認プロセスの在り方を問うているのです。
その主張は、3つの論理的支柱に基づいています。
5年一括承認(政府案)
行政の効率性を優先し、毎年の法案審議に伴う実務負担を排除。安定的な財政運営を確保する狙いだが、議会のチェック機能を5年間棚上げするリスクがある。
毎年審議(国民民主案)
効率性を多少犠牲にしても、毎年の国会審議で国民と市場に説明責任を果たすプロセスを維持。2011年以前の原則に立ち返り、財政規律を再建する狙い。
今までの5年間とこれからの5年間は大きく違う。1年に戻すことは積極財政の責任でもある。
── 田中健 議員(衆議院 財務金融委員会)田中健議員は、高市政権が「責任ある積極財政」を掲げるからこそ、毎年国会の承認を経て財政への責任を明確に示すべきだと主張しました。積極財政と財政規律は矛盾するものではなく、丁寧な説明と承認のプロセスがあってこそ、積極財政は正当性を持つという論理です。
第5条「行財政改革の徹底」─ 新設条文の実効性を問う
今回の改正案では、授権期間中の改革姿勢を示すため、第5条に「行財政改革の徹底」を新たに規定しました。近藤雅彦議員はこの条文に焦点を当て、「単なる努力義務ではいけない」と実行性の担保を迫りました。
新設された第5条は、5年間の授権期間中に政府が取り組むべき改革として、①歳出歳入改革、②社会保障制度改革等の行財政改革の徹底、③租税特別措置・補助金の適正化を明記しています。市場の信認確保を目的に、改革の姿勢を法律の条文として明文化した点が従来と異なります。
なかたに副大臣は答弁で、すでに具体的な取り組みが始まっていることを説明しました。
関係閣僚・副大臣
会議を開催
直ちに見直し可能
なものから着手
要望段階から
一貫して取り組み
成果を踏まえ
取り組みを継続
近藤雅彦議員は、国民民主党が掲げる「対決より解決」の姿勢を示しつつも、マーケットとの対話の重要性を強調しました。「責任ある積極財政を進める上でも、丁寧にマーケットとの対話をしていくべきだ」と述べ、行財政改革の条文化を評価しつつも、その実効性の継続的な検証を求めました。
第5条は「改革の姿勢を法律に明記した」という点では前進だが、具体的な数値目標や達成基準がなく、5年後の検証方法も不明確。国民民主党は毎年の審議を通じて、この改革の進捗を継続的にチェックすべきだと主張している。
市場との対話 ─ 「財政オートパイロット」の回避
特例公債法の議論は国内の法手続きにとどまりません。財政政策は国際金融市場に対する直接的なメッセージでもあります。特に現在は金利上昇局面にあり、日本国債の市場は不安定さを増しています。
国債を購入する投資家にとって、発行国がどれだけ財政規律を意識しているかは信用判断の重要な材料です。「5年間自動的に赤字国債を出せる」制度は、投資家から見ると「政治が財政のチェックを放棄している」と映るリスクがあります。反対に、毎年国会が承認するプロセスは、国の信用を裏付ける「制度的担保」として機能します。
国民民主党は、毎年の国会審議を単なる形式的な手続きではなく、投資家に対する「マーケット・コミュニケーション・イベント」として再定義すべきだと主張しています。毎年の経済・市場動向に照らして、国会が公債発行の妥当性を審議し承認するプロセスそのものが、リスクプレミアムの抑制に寄与するという見方です。
田中健議員は、現在の金利上昇局面や円安など不確定要因が多い環境下で、「毎年その進捗状況を見ていくことが大切」と強調しました。5年間の一括承認は議会チェックの空白期間を生む一方、毎年の審議は市場に対する信認を継続的に更新する機会になります。この透明性の高いプロセスそのものが、日本の財政信用を支える「無形のインフラ」であるという洞察に基づいた提案です。
毎年の審議は「非効率」ではなく、市場への信認シグナル。国民民主党は、財政運営の透明性こそが国債市場の安定と国民負担の軽減に直結すると主張している。
- 衆議院インターネット審議中継 本会議 田中健議員 2026年3月5日
https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=56098&media_type= - 衆議院インターネット審議中継 財務金融委員会 田中健・近藤雅彦議員 2026年3月10日
https://dpfp-db.com/diet/?kokkai_date=2026-03-10 - 【閣法解説】特例公債法改正案 原田秀一 国民民主党
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